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オペラ「ペレアスとメリザンド」①:作品・音楽編 [オペラ(実演)]

今回のロンドン旅行をこの時期に決めた個人的な一番の理由は、ロイヤル・オペラハウスで上演されるドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」でした。サイモン・ラトル(Simon Rattle)の指揮と充実したキャストが揃った今シーズン注目演目のひとつだったのですが、期待を裏切らない素晴らしい公演だったと思います。

既に旅行記の目次で書いておきましたが、私は10日(初日)、21日、23日(千秋楽)の公演に行きました。元々は初日と千秋楽だけチケットを買ったのですが、21日にはロンドンの椿姫さんやdognorahさんもいらっしゃるということで、急遽当日券を購入したのです。更にこれら本公演とは別に、行けなくなってしまった方から譲っていただいて9日のリハーサルまで楽しんでしまったので、結局この演出で4回見たことになります(こんなの2005年の「ビリー・バッド」以来です^^)。自分でも冷静に考えると苦笑してしまいますが、何せチケット代が(日本に比べると)安いのでついつい気軽に見に行ってしまうんですよね~。それに、メーテルランクの戯曲の様々な隠喩や暗示めいたせりふとドビュッシーの音楽との関係を自分なりに解釈するのが楽しくて、舞台芸術好きとしては麻薬のようなオペラでした。せっかく4回も行っていっぱい考えさせてもらったので、今回は①としてオペラ自体と音楽面で感じたことを書いてみようと思います。歌手と批評家に大不評だった演出については、②の方で思う存分語りたいと思います。


<作品について>

対訳 ペリアスとメリザンド

対訳 ペリアスとメリザンド

  • 作者: M. メーテルランク
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1988/10
  • メディア: 文庫

戯曲「ペレアスとメリザンド(Pelleas et Melisande)」
(1892年出版)は、日本では「青い鳥」の作者として知られているベルギーの劇作家モーリス・メーテルランク(Maurice Maeterlinck)の代表作のひとつ。日本語訳は岩波文庫から対訳版が出ています。

あらすじ:アルモンド国の王子ゴローは、迷い込んだ森の奥深くで見つけたメリザンドと名乗る不思議な女性に魅かれて、彼女の素性も分からないまま結婚する。祖父であるアルモンド国王アルケルの許しを得て帰国したゴローとメリザンドだが、メリザンドはゴローの異父弟ペレアスと次第に親交を深めていき、2人の親密さに疑念を持ったゴローは密会場面を目撃し嫉妬に狂ってペレアスを殺害してしまう。そのまま寝込んだメリザンドは、娘を産んだ後衰弱していき、ペレアスとは肉体関係はなかったとゴローに言い残して絶命する。

今まで多少疑問に思っていたストーリー展開ですが、今回は自分なりに細かいところまで理解することが出来たので、かなりすっきりしました。メリザンドの不思議ちゃんぶりを示す不可解な発言の数々も、それなりに筋が通っているんですよ。例えば、中肉中背のゴローに「あなたは巨人ね」と言うところ。これは見た目の問題ではなくて、ゴローの人生経験が豊富で、精神的に成熟しているということを言っているのでしょう。実際孫世代3人の中でアルケルのことを「おじいちゃん(Grand Pere)」と呼ばないのはゴローだけですし。そして、彼女が「うまく説明できないけれどここは居心地が悪いの」とぐずる場面では、イニョルドやペレアスだったらゴローのように細かい理由を求めることは無いでしょう。「異世界」から来たメリザンドと親密な精神的交流ができるのは精神的にまだ子供のイニョルドとペレアスだけで、ゴローはメリザンドに惹かれながらも彼女の心の声を聞き取るには成長しすぎているのです。アルケルのメリザンドへの対応を見ると、これから老年まで経験をつめば再びそういうものを感じられるようになるのでしょう。これは私の解釈ですが、こう考えると、メリザンドを連れてきたはずのゴローだけがアルモンド国で浮いてしまって、一人で嫉妬と妄執とすれ違いに悩む構図がしっかり浮かんできます。

 ところで、4度も見たのに逆に混乱してしまったのは、アルモンド王家の血縁関係!特に、ジュヌヴィエーヴはどちらの母なのか?という点がどうしても分かりませんでした。ゴローの手紙にあるとおりアルケル王の息子がゴローとペレアス両方の父(異母兄弟)だとすると、「この地にやって来て40年」とメリザンドに語るジュヌヴィエーヴは年齢的にもゴローの母でしょうか?しかし!キャスト表は"Genevieve, mother of Pelléas and Golaud"となっています。えっ、どういうこと?2人は異父兄弟なの?でもそれじゃあジュヌヴィエーヴは夫が変わったのに城は変わらなかったということになるけど~?最初はアルケルの長男と結婚して、2度目は次男と結婚したのかな?(よくあること)などと、考えれば考えるほどよく分からなくなってしまいます。ご存知の方がいらっしゃいましたらぜひコメント欄で教えてくださいませ。 ※Bowlesさんが早速こたえてくれました。ジュヌヴィエーヴはアルケルの娘で、ゴローとペレアスは異父兄弟でした。(推測は殆どハズレでした^_^;)上で書いた、ゴローの手紙に異母兄弟だと書いてある、というのは字幕ミスによる誤解でした。

★Wikipediaにも読み応えのあるページがあります。
モーリス・メーテルリンク
ペレアスとメリザンド(戯曲:あらすじ有)
ペレアスとメリザンド(ドビュッシー)
↑「評価」の項目でワーグナーとの共通点と違いが簡潔に説明されていて面白いです!


<音楽について>

 とにかくこのオペラは、公演プログラムにすら「特異なオペラ」なんて書かれているくらい「アリア」や途中で拍手できるポイントというものがありません。実際の舞台では、歌手たちは全て音符つきのせりふを喋っているように感じますし、オーケストラも映画のBGMのように場面の転換やせりふの説明を補足するような音を奏でていきます。そういう意味では非常にとっつきにくいオペラで、激しく好みが分かれる作品だとも思います。私もこれまで音源や映像で何度か見ましたが、それほど心に響くものがなく、嫌いじゃないけど長すぎる(全5幕:約3時間)という印象でした。今回劇場で見たところ、この印象は激変して(笑)かなり好きなオペラのひとつになりました。その一番の理由は、フランス語のせりふの響きと音楽が見事に溶け合っていて、それぞれの場面の密度が非常に濃い「演劇として楽しめるオペラ」だということが分かったからです。

今まで聞いた/見た公演も、それぞれかなりレベルの高いものだったと思いますが、今回の公演で、初めてこのオペラでのフランス語の響きにぴったり合った音楽の素晴らしさは特筆に価すると思いました。フランス語なんて挨拶程度しか理解できない私でも歌手全員が一言一句深く理解して歌っているのが分かるくらい表情のある歌唱で、まるでシェイクスピアやシラーなどの古典演劇を見ているかのような緊張感が感じられたのです。一般的なオペラだとどうしても「問いかけのアリア」(拍手)→「返答のアリア」(拍手)→「デュエット」(拍手)とか、他人には聞こえていないはずの心の声を4人で重唱とかが入って、ストーリー展開の勢いというものが失われがちになってしまいます。ところが「ペレアスとメリザンド」はストーリー展開がテンポ良く、無駄がなくて緊張感が損なわれないのです。

ドビュッシーはメーテルランクの戯曲のせりふにほぼ忠実に作曲しているので、一人で15分以上も歌い続けるということはないですし、繰り返しも最小限で、長いアリアも重唱(同時に2人以上が歌うこと)もありません。それなのに3時間ということは、結果的にそれだけ沢山のやり取りがあり、人物の設定も複雑ということです。状況説明のせりふも少ないですし、各登場人物の心理状況は独り言でない限り歌われないので、私が上でやっているように会話での意味深なせりふを聞き手が自由に解釈できるのも魅力的ですね。

ところで、このオペラには音楽的クライマックスがないという批判をよく目にしますが、もちろんありますよ~(^^)ペレアスとメリザンドが初めてお互いへの親愛を告白し、その後ゴローがペレアスを殺害する第4幕第4場全体がクライマックスだと思います。ですが、このゴローによるペレアス殺害にたどりつくまで、じわじわと複線を張っていくのを2時間近くも聞かなくてはいけないので、幕が開いたらいきなりアリアや大合唱があるオペラを聞きなれていると退屈かもしれません。更に、何を歌っているのか即座に分からないと話の展開についていけないですし、繰り返しもないのでフランス語を理解できるかどうかというのはこのオペラを楽しむ上でかなり重要な要素だと思います。この点では、私にはロイヤル・オペラの優秀な字幕が随所で役に立ってくれました。早口になるところでは大量に字幕が出るので追いかけるのが大変でしたが(笑)

ところで、このオペラは第4幕で終わってしまわないところも、登場人物に深みを与えていて良いですね~。衰弱していくメリザンドの周りで繰り広げられるアルケルの達観した独白やゴローへの忠告、ゴローの後悔と哀しみが入り混じったメリザンドへの謝罪と拭い去れない疑念、そして新しい命の誕生…。オペラには珍しいくらい観客に委ねる形のエンディングになっていると思います。これはハッピーエンドなのか、アンハッピーエンドなのか?なんてことまで観客によって意見が分かれそうですね。とにかくこれだけ面白いのだから、メーテルランクの戯曲は早いとこ読まなくちゃ!と思いました(^^)  


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Bowles

いいですねぇ、このオペラ。私も大好きです。あの繊細さがたまらない!!ほんとうに言葉の美しさを最大限にひきだした音楽だと思います。かつての最良のペレアス、そして現在最良のゴロー、フランソワ・ル・ルーが、この2,3年ピアノ・ヴァージョンで歌っていますが、これもなかなか素晴らしいものです。言葉の美しさはこちらのほうがよく伝わるかな。

http://www.musee-orsay.fr/fr/manifestations/spectacles/archives/presentation-generale/article/pelleas-et-melisande-526.html?S=0&tx_ttnews%5BbackPid%5D=1286&cHash=c132e28048

さて、ジュヌヴィエーヴのこと。
彼女はアルケルの娘で、最初の夫との間にゴローを、二番目の夫(まだ存命で「階上に」重病で伏せている)との間にペレアスをもうけました。ですから、ゴローとペレアスは異父兄弟、ということになります。

>「この地にやって来て40年」

このジュヌヴィエーヴの言葉は理解しにくいのですが、父で王たるアルケルが盲目になったため、アルケルの隠遁場所たるこの城にやってきて40年ということなのか、最初の夫と死別してこの暗い森の中の城に来てからの年月なのか、そこらあたりは明らかにされていませんね。
by Bowles (2007-06-11 10:29) 

azalea

待ってました~!!!
やっぱりシリーズ物になるんですねっ。期待大♪

私は、「ペレアスとメリザンド」で、初めて、オペラでの音楽と言葉の美しさをしみじみ感じました(オケも素晴らしかったですしね)。登場人物の個性と音楽が一致していると実感できたのも初めてでした。フランス語、理解できたらもっと美しく感じられるのかと思いました。

そういえば、記事がロンドン旅行記になってから、壁紙(というのかな)が、この記事のトップの写真になっていますね。しばらく気づきませんでした。この宣伝ポスター、売ってほしかったなあ(笑)。

続き記事を気長に待っています!
by azalea (2007-06-11 11:57) 

Sardanapalus

Bowlesさん>
コアなファンが多いというのも頷けます!

>フランソワ・ル・ルー
彼の名前を見ると、どうしてもあの「美しきエレーヌ」を思い出しちゃうんですけど(^^)、彼のオフィシャルページでビデオや音源を聴きました。良いですね♪やっぱり私はバリトンのペレアスが好きだな。ピアノ版もあるのですか!機会があったら聞いてみたいです。

>ジュヌヴィエーヴ
>彼女はアルケルの娘
そうか!その選択肢を考えていませんでした(^_^;)「やってきて40年」と言ってますし、アルケルとの会話がどうもよそよそしく感じたので、嫁入りしてきたのだと思い込んじゃってました。ゴローの手紙の方は、リブレットで確認したらちゃんと「父親は違うが」ってなってました。これは以前私が見た映像の日本語字幕が間違っていただけ(駄目じゃん!)でした。ひとまずすっきりしました。ありがとうございます。
by Sardanapalus (2007-06-11 13:21) 

Sardanapalus

azaleaさん>
>シリーズ物
といっても2つだと思いますが、お待たせしてしまったし少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

>登場人物の個性と音楽が一致している
そうそう!それぞれの心境にぴったりの流れるような音楽がついていて、知らないうちに劇の内部へ入り込んでしまいました。

>壁紙(というのかな)が、この記事のトップの写真
そうなんですよ~。このポスターはうまく三角ズボンを隠していましたよね(笑)
by Sardanapalus (2007-06-11 13:41) 

フンメル

私も最近実演で接して、このオペラの美しさに魅了されました。
同じく、録音や映像では、今ひとつピンと来なかったんですが。
こんな豪華キャストの公演も見てみたいですね。

しかし、4回も見たとはすごい!
どっぷりと、ペレアスの不思議な世界に浸られたことでしょうね。

>フランス語の響きにぴったり合った音楽の素晴らしさは特筆に価する
まさしく!
観劇後には、フランス語をきちんと勉強しようとすら思いました・・が。。(汗)

演出の詳細レポートも楽しみにしてますね!
by フンメル (2007-06-13 00:52) 

alice

いつものことですが、ぼーっと一度観ただけでは、思い出せないシーンもあり、4回も観られたSardanaplausさんが羨ましいです。

そしてレポートを拝見して、私が気がつかなかったことも、詳しく書かれていて、とても参考になりました。Part2も楽しみ!!

数年前、フランス語を習っていたとき、先生が何か読みますか?と言われたので、映像を見て惹かれていたこの原作をリクエストしました。(その割りにさぼってましたが・・・汗)。フランス語の持つ響き、行間に浮かぶニュアンス、ちょっとひねった文学的な意味あい・・・フランス語を少し齧った程度でも、この物語の素晴らしさに目覚め、いつかは生のオペラをと思っていました。夢が実現したわけですから、有頂天状態。次回は冷静に観れるでしょうか。

その次の機会があれば、なるべくフランスの歌劇場で、そして、フランスの歌手たちで聴いてみたいですね。
by alice (2007-06-13 13:11) 

Sardanapalus

フンメルさん>
>実演で接して、このオペラの美しさに魅了
このオペラほど生の公演と録音や映像で印象が違う作品も珍しいですね。私なんていつもは笑ってしまうフランス語の響きまで見直してしまいましたよ(^^)

>演出の詳細レポート
おそらく週末になると思いますが、イロイロと思うところを書いてみようと思っています。早く書かないと旅行記がいつまでたっても終わらない(^_^;)
by Sardanapalus (2007-06-14 22:46) 

Sardanapalus

aliceさん>
>私が気がつかなかったことも、詳しく
何せ4回も見てますから!(笑)aliceさんの記憶を蘇らせる手助けになれば良いのですが。

>夢が実現したわけですから、有頂天状態
それは素敵な体験になりましたね~。ちょっと変わったメリザンド像でしたが、戯曲を読んでいらっしゃるならそういう部分も興味深く感じられたことでしょう。

>フランスの歌劇場で、そして、フランスの歌手たちで
今回の公演でフランス人は演出家だけでしたね。ゴローなら何人か思い浮かびますけど、メリザンドとペレアスは…Bowlesさんや助六さんならお勧めの歌手を紹介してくださるでしょうけれど、私はフランス人歌手には疎いのでぱっと出てきません。次回はもう少し王道の演出でご覧になれると良いですね。
by Sardanapalus (2007-06-14 22:54) 

N氏

>さて、ジュヌヴィエーヴのこと。
>彼女はアルケルの娘で、最初の夫との間にゴローを、二番目の夫
(まだ存命で「階上に」重病で伏せている)との間にペレアスをもう
けました。

この他に、アルケルに2人の息子がいて、ジュヌヴィエーヴは、まず2人の一方と結婚し、それが亡くなってから、その弟か兄と結婚した。。。。ということも考えれます。

すると、「ここに来て40年」は、「最初に嫁いできて40年」と自然に解釈できますね。

また、最初に嫁いだのが兄で、兄の亡き後弟と結婚してペレアスを生んだとすると、まったくメリザンドとゴロー、ペレアスの関係を連想させますねものがありますね。。。ペレアスがゴローに殺されなければ、メリザンドはジュヌヴィエーヴと同じような人生を辿ったかも。

まあ、どちらとも確証がありませんが、、、
by N氏 (2008-01-21 08:20) 

Sardanapalus

N氏さん>
こんな昔の記事にコメントありがとうございます!

>最初に嫁いだのが兄で、兄の亡き後弟と結婚してペレアスを生んだとすると、まったくメリザンドとゴロー、ペレアスの関係を連想
本当にその通りですね。兄弟を巡る一人の女性というテーマを考えても、この辺りの設定に関しても諸説ありそうです。
by Sardanapalus (2008-01-27 11:46) 

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