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演劇「コリオレイナス」 [演劇]

この週末は久しぶりにシェイクスピア劇を見てきました。演目は「コリオレイナス(Coriolanus)」。シェイクスピアの作品の中でも日本での上演機会は極めて少ない作品です。ラブストーリーでもないし、有名な長台詞もないし、ローマの政治体制と当時のイタリア半島の状況などを多少知識として押さえておかないとわけが分からないからでしょうか。今回のように蜷川幸雄の演出ならそんな細かいことは知らなくても一人の高慢な武将の話として十分楽しめますけどね(笑)

あらすじは、彩の国シェイクスピア・シリーズのホームページへどうぞ。ちょっとそっけない気もしますが分かりやすくまとまってますし、キャスト情報も載ってます。

今回の演出、まず幕があいて圧巻なのは、客席全体を映す舞台一面の鏡。蜷川は「リチャード3世」でも大衆をあおる場面で鏡をうまく使ってましたが、自分も含めた大衆がいきなり目の前に表れるインパクトはかなりのものがあります。そして舞台いっぱいの大階段もさすがは蜷川、期待を裏切りません(笑)プログラムによると、蜷川のギリシャの印象(石段が多い)と日本の神社仏閣の石段のイメージを合わせたものだそうですが、ここを俳優たちが上下左右に駆け回って面白かったです。特に、群集が弱気になったり元老院に押されているときは下の方に群れているのに、強気になったり暴徒と化して貴族階級に反抗するときは上に駆け上がったりするのは視覚的にもそれぞれの立場の変化が見えて感心しました。やっぱりこういう「分かりやすさ」が蜷川演出の一番の魅力ですね。

演出の基本コンセプトは、最近の蜷川シェイクスピアに共通する「アジアのシェイクスピア」。今回はその中でも仏教(四天王、坊主頭、菩薩)のイメージが強くて、最初は登場人物たちが「神々よ!」なんて叫ぶたびに違和感を感じていましたが、コリオレイナスが一騎打ちに敗れて絶命し、勇者として担がれて退場するときに流れる「般若心経」に、全てこの世は「空」である、ということが言いたかったのかな、と納得しました。それでもやはり神道の方があってると思うんですけどね。

相変わらず美しいカットと抜群の色彩センスが光る小峰リリーの衣装は、オペラグラスでじっくりと細部まで観察してしまいました。今回はシンプルなシャツやドレスの上に日本、中国、チベット、ミャンマーといった仏教の伝わったルート上の民族衣装を混ぜ合わせたような衣装でしたが、ローマと争うヴォルサイの貴族たちがハツカネズミに見えてしまったのには思わず笑ってしまいました。平民にはウールのコートを着せて、貴族や元老院議員たちはスターウォーズに出てきそうな姿、というのも階級の違いが分かりやすくてよかったです。舞台セットは中央の石段を中心に水墨画や蒔絵の漆器のイメージが強かったですね。基本的には贅沢なセットで階段の上下をうまく使っていたのであれこれ深読みできて楽しかったですが、ヴォラムニアが登場すると背景に菩薩が現れるのはちょっと違うかも?と思ったり。この強い母はコリオレイナスにとって、本当は重荷だったんじゃないのかな~。

NINAGAWA×SHAKESPEARE 3 俳優の中ではメニーニアス・アグリッパ役(コリオレイナスの親友)の吉田鋼太郎が印象に残りました。去年イギリスで見た蜷川演出「タイタス・アンドロニカス」のタイトル・ロールでも名演を見せてくれました(DVDになってます←)が、今回も斬新な解釈で生き生きと役を演じていたと思います。ぽろっとこぼれる本音のつぶやきや、短気なコリオレイナスへの助言や、コリオレイナスに「2人の友情は終わった」と突っぱねられたときの憔悴度など、こだわりを感じる部分がいっぱいです。あの良く響いて聞き取りやすい声も素敵ですね♪

主人公ケイアス・マーシアス・コリオレイナスは唐沢寿明でしたが、イケメンで実力もあるのに強情で高慢すぎる軍人によくはまっていました。ちょっと残念だったのは声が嗄れていたことですね。声が届かないので印象に残るはずの場面が流れてしまったりして残念。あれだけ騒いで喋ってれば仕方ないかもしれませんが、そこはやはりプロとして調整して欲しかったです。

コリオレイナスのライバルであるタラス・オーフィディアス役の勝村政信は久しぶりに見ましたが、相変わらず手堅い演技をする人です。コリオレイナスに対する屈折した想いを込めた役作りが面白かったです。コリオレイナスとの最後の一騎打ちは、見事な殺陣で感動的でした。そして最期に飛び散る血しぶき、これぞスペクタクル!!(笑) 

女性陣ではコリオレイナスの母ヴォラムニア役の白石加代子がいつもどおり魔力のありそうな強い女をしっかりと演じていました。とにかく彼女には誰も勝てません(^_^;)

他の俳優たちもそれぞれ足を引っ張ることなく全体としてよくまとまった公演だったと思います。長時間の公演でしたが、緊張感も途切れず重厚な芝居を楽しみました。この公演は4月にロンドンのバービカンでBITE08に参加しますが、追っかけて渡英したい気持ちでいっぱいです。あそこは劇場のサイズも手ごろだし(私が見に行った愛知厚生年金会館は1666席…もうひとまわり小さい会場が良かったです)、俳優の気合も客席の雰囲気も段違いなのですよ。ロンドン在住の皆さん、お暇だったらぜひ行ってみてください。えーシェイクスピア~?なんて思ってる人でも、蜷川の演出(と現代日本語訳のせりふ)ならストーリーを楽しめると思いますよ。


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シェリー・ルー

初めまして、3/9名古屋初日に行ってきました。
初舞台観劇・・・で、感動してました。
カーテンコールで、一人で立って「マーシアスー」などと
叫んでしまいました。私も、唐沢さんの声が聴き取りにくい場面が
あって残念な部分もありましたけど、生舞台はいいな~っと思いました。
感想も含め↓で稚拙ではありますがブログ作っています。
http://blog.so-net.ne.jp/so-happy/2007-03-10
よかったら遊びに来てくださいませ。
ほぼ、小栗旬ネタですけど。。。
by シェリー・ルー (2007-03-12 22:01) 

ヴァラリン

サルダナさんはホントに守備範囲が広いですよね。
演劇も、観てみたいと思いつつ、面倒が先に立ってしまって。で、何故書き込みしたかと言うと
>唐沢寿明
に反応したからです(^^ゞ

かれこれ20年近く前の話ですが、トレンディドラマに出ている彼にすーごくハマった時期があります。(現在進行形の彼ほどではないけど(^^ゞでも写真とか色々集めた記憶が。。。)

そういえば、その頃も「舞台出身だから、演技が上手」という触れ込みだったんですよ。その後、トレンディドラマ自体への興味が薄れると共に、彼に対するお熱も冷めてしまいましたが、元は舞台のひとなんですよねぇ。
なんだか懐かしくて、おしゃべりしてしまいましたm(__)m
by ヴァラリン (2007-03-12 22:53) 

Sardanapalus

ジェリー・ルーさん>
はじめまして!コメント&nice!ありがとうございます。ジェリー・ルーさんも気に入られたのですね。早速ブログ記事読ませていただきました。やはり厚生年金会館は生声の芝居をする場所ではないですよね~。同意見の人がいて嬉しいです。

>生舞台はいいな~っと
そうそう、ちょっとは文句が言いたくなっても、やはり舞台は生で見るに限ります。これからも色々なジャンルを試してみてくださいね。
by Sardanapalus (2007-03-12 22:58) 

Sardanapalus

ヴァラリンさん>
>守備範囲が広い
舞台芸術全般が好きなので、オペラもシェイクスピアも小劇場も勝手に楽しんでしまっているという感じです。好奇心旺盛なので趣味は広く浅く、がモットーだったり(^^)

>>唐沢寿明
>すーごくハマった時期があります。
へ~!そうなんですか!!今回は坊主頭で大熱演でしたよ。トレンディードラマの役とはちょっと色が違いますが、よく似合っていました。
by Sardanapalus (2007-03-12 23:21) 

クリス

私もコレは、土曜日の夜に観ました。唐沢好きなんですが、声がやっぱりでてなくて。勝村、白石さん、吉田さんは良かったです♪
衣装も舞台も申し分なかったんですが、一部ってほとんど状況説明というか、もっとイギリスの舞台っぽい間を期待していた為に、サラサラと流されちゃった気がして。映画にみるシェイクスピア、イギリスでみたシェークスピアには心がグッと入っていったのに、今回はけっこう距離をおいて観ていました。題材のせいかなぁ?とも思うんですが、日本の舞台ってあんまり観たことがなくて、経験がたらないのかもしれません。
私も鏡の出現にはビビりましたー。
by クリス (2007-03-13 08:51) 

Bowles

《コリオレイナス》はもう何十年も前に日本人の翻訳劇(俗に言う「新劇」ってやつですね)で観てげんなりし、その後アルメイダ・シアターのレイフ・ファインズの公演に接するまでライヴを観たことはありませんでした。その時やっとあの劇の本質に気づいたような気がします。ただの翻訳劇として公演されても、気づかなかった...。

蜷川の舞台は、日本土着的(笑)な空間の中に置くことで、かえって劇のテーマの普遍性が見えてくるようなものですね。ただ好みかといわれると、ちょっとひいてしまいます。
by Bowles (2007-03-13 09:21) 

Sardanapalus

蟻銀さん>
>土曜日の夜
え~!私も土曜の夜ですよ。ニアミスでしたねー。そうと分かっていればオフでお会いしたかったですね。

>イギリスの舞台っぽい間を期待していた為に、サラサラと流されちゃった気がして
イギリスのシェイクスピア俳優って、間の取り方が異常に上手いんですよね~。日本の俳優はどちらかというと器用にまとめるのが上手いタイプが多いので、どうしてもあの感じが出ないんですよ。逆に、イギリス性の無さが新鮮だったりするんですけどね。

>けっこう距離をおいて観ていました
私も蜷川の演出では個々の役ではなく、話全体を俯瞰するような楽しみ方をすることが多いです。さらに「コリオレイナス」は主要キャラそれぞれに見せ場があるので、声の嗄れた主役じゃちょっと没入できませんよね。
by Sardanapalus (2007-03-13 20:54) 

Sardanapalus

Bowlesさん>
>俗に言う「新劇」
私はありがたいことに(?)新劇のシェイクスピアを見たことが無いので苦手意識もなく日本語シェイクスピアとお付き合いできています。

>ただの翻訳劇として公演されても
私だったら爆睡しているかもしれません(^^)

>日本土着的(笑)な空間の中に置くことで、かえって劇のテーマの普遍性が見えてくるようなもの
正にそうですね。蜷川がシェイクスピアやギリシャ劇を演出するときは、ヨーロッパの文化に疎い日本の観客でも劇の本質を楽しめるようにしているんだそうですよ。アジアとヨーロッパを足した衣装や舞台美術を使って、時代や場所の設定を曖昧にすることによってストーリーそのものを浮かび上がらせるのも常套手段ですね。私はオペラの読み替え演出のように楽しんでいます。去年再演していた「タイタス・アンドロニカス」はかなり良かったですよ。
http://blog.so-net.ne.jp/sardanapalus/2006-06-23
by Sardanapalus (2007-03-13 21:21) 

クリス

あーやっぱり土曜夜だったんですねー!知ってたらお会いしたかったなぁ。私も、グラスゴー時代の友達と一緒だったんで、イギリス話に花が咲かせたのに、、、(>_<)
日本の役者は、器用にまとめタイプなのですね。そして蜷川演出解説もありがとうございます。そういったことを踏まえて、又なにか日本のシェークスピア作品に挑戦したいと思います!
by クリス (2007-03-13 22:55) 

stmargarets

おっ、観にいったんだね。
私は当然バービカンでかぶりつくことになってます(笑)。
唐沢先生にはそれまでに声を戻しておいてもらわないと。

ところで間の取り方の話だけど、ことシェイクスピア劇に関しては翻訳の出来も大きいのかも。
前に取ってた夜間コースみたいな所でシェイクスピアの話になったの。その時の先生はこっちでシェイクスピア劇を何本も演出してる人らしいんだけど、ものすごいシェイクスピアのリズム信奉者で、シェイクスピア劇はリズムが命!って力説してたんだよね。
で、じゃぁ翻訳劇じゃ意味がないって事ですか?って質問したら、
その翻訳がどれだけ元のリズムを活かしきれてるか次第だ。って答えで、更に
自分が今まで観た中で一番よかったシェイクスピア作品はニナガワのマクベスだ(古い方ね)。と言っていたよ。
by stmargarets (2007-03-14 00:22) 

Sardanapalus

蟻銀さん>
>やっぱり土曜夜
そうだったんですよー。お友達と一緒に盛り上がりたかったぁ~!次回は連絡入れますね(^^)

>又なにか日本のシェークスピア作品に挑戦したい
ぜひそうしてください。ひとくくりに日本のシェイクスピアといっても色々ありますから、イギリスとはまた違った視点で楽しめると思います。
by Sardanapalus (2007-03-14 21:37) 

Sardanapalus

stmargaretsさん>
本当はバービカンに行きたかったけど、ちょっと無理なのでハコの悪さを承知しながらも名古屋で行ってきました。

>シェイクスピア劇に関しては翻訳の出来も大きいのかも
>シェイクスピア劇はリズムが命!
そうそう、イギリスにはこういう意見の人が多いんですよ。だから、翻訳や現代語訳されたものやオペラ作品なんて絶対駄目!という意見もよく聞きました。確か、イギリスの一般的なシェイクスピア公演では、稽古の冒頭1週間は台詞の読み合わせで潰れると聞いたような…。そういう細かく計算された台詞回しは確かにとても美しいけど、あまりそこばかり強調されると「ストーリーはくだらない」って言われてるみたいで悲しいんですよね。あのごちゃっとした話の展開が面白いのに!(^^)

>どれだけ元のリズムを活かしきれてるか次第だ
日本語にあのリズム感を求めてはいけません(笑)

>ニナガワのマクベスだ(古い方ね)
この演出ってイギリスでの人気が高いんですよね~。私も教授に「『NINAGAWAマクベス』の映像は持っていないのか」って聞かれました(^_^;)
by Sardanapalus (2007-03-14 21:55) 

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