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オペラ「1984」(2) [オペラ(実演)]

さて、(1)だけでも充分長いのですが、オペラ「1984」(2)としてもっとオペラとして全体的な印象やツッコミどころについて語ってみたいと思います。

まず、オペラの嬉しかった点についていくつか。やっぱりキャストが素晴らしかったことが一番ですね。特に、キーンリーサイドのウィンストンは小説のイメージからすると体が健康すぎる気もしますが(男前すぎるという批判もあったり…それはどうしようもないのでは)、心理的に「治療」されていく様子が手に取るように分かる歌と演技で、正にオペラの流れを引っ張っていました。一般的な拷問と最後の「治療」を行う101号室に移される間、広い舞台上でウィンストンが一人夢に出てきた母親やジュリアのことを回想して歌うシーンがあるのですが、ここは客席中が固唾を呑んで見守っているといった感じでかなりの緊張感が漂った劇場空間になってました。中でもジュリアが「治療」されてしまったことを聞き、自分が愛したジュリアを思い出して「Julia, My love! My Julia!」と心の底から叫ぶシーンは、その後101号室で結局彼女を裏切ってしまうシーンのインパクトをとても強いものにしていて、個人の非力さが痛いほど伝わってきました。劇場へはよく行きますが、ここまでの体験をする作品はなかなかありませんからね~。この独白シーンだけでもこのオペラの存在価値はあると思いますよ。「人間」について考えさせられます。これは演出のルパージュの功績だと思うのですが、まだ見たことの無い彼の他の作品が見たくなりました。そうそう、ジュリアのグスタフソンが背が高く、キーンリーサイドより大きいくらいだったのも私の中のウィンストンとジュリアのイメージに合っていました。押しの強い若い彼女と受身な中年の彼氏という感じ(笑)

それから、舞台セットと衣装にはあの「1984」のどんよりとした世界観がよく出ていました。「あんな制服着て、あんな部屋で暮らしてたらそりゃ人間壊れるよ~」と思わせる説得力があったと思います。音楽の押しが弱い部分でも、その効果があって集中力が途切れませんでした。こういう、舞台美術でイメージを補うという点は「オペラ」というより「ミュージカル」っぽいのかな~。「オペラ」はぶっちゃけ音楽(歌)が一番の要素ですからね。名作とされているオペラはどれも1曲の存在感が凄いですから。「1984」はそうじゃなくて、150分ある曲を聴かされてる感じだったかな。…なんだか酷評してるみたいですけど、一応全体の雰囲気としては気に入ってるんですよ、これでも。まだ1回しか聴いてないからアラに気付いてないだけかもしれないけど(^_^;)それから、国民放送の声をジェレミー・アイアンズ(Jeremy Irons)が当てているのですが、ちょっとアメリカンアクセントでのわざとらしい誇張の仕方がイメージにぴったりでした。事務的なのに魅力的な声とでも言いますか…彼の声が繰り返し叫ぶ「Victory!」は、正に洗脳されそうな響きを持っていました。

そしてツッコミどころ達。(1)にも書きましたが、音楽の中で一番やめて欲しい歌詞の繰り返し!「101号室」が「10111号室」や「1010101号室」になっちゃうのは問題外でしょう。意味の無い繰り返しは折角の緊張感や良い雰囲気が台無しになるのでカットするべきです。それだけでもかなり改善されると思うんですが。歌手も歌いにくそうだったし。それから、ウィンストンとジュリアがはじめて落ち合って、良い感じになったところでいきなりオブライアンが登場して「驚かなくても良い!」とか言うシーン。あんたそれまで二人がいちゃいちゃしてるのをずっとそこで隠れて見てたのか~い(笑)そして、また別のいちゃいちゃシーン(笑)で、ジュリアがウィンストンにモーションかけてる時にいきなり「母のことを夢でみた」って歌いだす構成はどうなんですかー?彼のトラウマになっている体験をジュリアに打ち明ける、という深刻なシーンなのに、あまりの唐突さに会場から笑いが起こってたよ(苦笑)そりゃ彼女といちゃついてる時にいきなり母親の話始める奴がいたら失笑を買うわ!

こんな感じでしょうか。とにかく、一度見る価値はあるオペラだと思います。好き嫌いはものすごくはっきりと分かれると思いますけど(笑)このオペラ、最初の頃には東京でやるかもしれなかったんですよ。結局その話は白紙になったんですけど、これを東京でやったらどんな批評を受けたのかなぁとちょっと考えてしまいました。そうなったらチケット代はもっと高かったかな?このオペラ、最高ランクの席も1万円(50ポンド)なんです。本当に気に入ったので、明日の千秋楽も見に行きます。再演の予定も立っていないので今見ておかないと!(笑)


追記:そういえば、この世界に存在する3大国、舞台になっているオセアニア(Oceania)とユーラシア(Eurasia)は小説の日本語訳と同じ発音でしたが、イースタシア(Eastasia)は英語では「イーストエイジア」と発音するのが正しいようです。最初何でいきなり「東アジア」が出てくるのか分からなかった(笑)ウィンストンが骨董品屋で見つける「水晶(crystal)」も、いわゆる観光地によくあるガラス球に建物とかのミニチュアが入ったお土産の置物のことを指しているのだというのはオペラを見てはじめて分かりました。本当に水晶で出来てる置物だと思ってたよ~。(訂正:19日に、実際に水晶の中に珊瑚の細工が入ったものであることを確認しました。最初のイメージ通りでよかった…)

 


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euridice

こういう新作オペラに出会えたなんて、とても運がいいんじゃないかしら? レパートリーとして残るのはなかなか難しいようですから、今見ておかないと!は正解でしょうね。

>キーンリーサイドのウィンストン
写真で見る限り、それから、テレビで見た彼の雰囲気などからも、(
特にパパゲーノの)とっても適役だと思います^^;
by euridice (2005-05-18 23:13) 

Sardanapalus

全くそのとおりで、とってもラッキーだったと思います。オペラの中の「新しい形」が提案されている感じでした。古典バレエに対するモダンバレエのような違いがあったと思います。たまにはそういうオペラがあっても良いじゃない、と私は思うのですが、ロンドンのお高い批評家達は気に入らないみたいで(笑)私が行った日は若い観客からの受けの方が良かったと思うので、もしかしたら10年後には「初演時は酷評の嵐だったのが嘘のようだ」とか言われるくらいのオペラになってるかも?

>写真で見る限り、それから、テレビで見た彼の雰囲気などからも、(
>特にパパゲーノの)とっても適役だと思います^^;

そうなんですよ。これ、キーンリーサイドにウィンストンをあてがきしたんじゃないか、というくらいはまっていました。陰のあるちょっと疲れた感じの小柄な中年男性で、マゼールの意地悪なまでに音域の広い曲を歌いこなせる人、歌手にはなかなかいませんからね。小説読んだ時は「正に不健康なキーンリーサイドのイメージだ!」と思っちゃいました。まずほとんどの歌手にとって小柄というのがネックでしょう(笑)拷問シーンではかなり体力も使うし、ファンじゃなくても「キーンリーサイドがウィンストンで良かったね~」という声がほとんどのようです。
by Sardanapalus (2005-05-19 01:14) 

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