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オペラ「椿姫」@NHKホール(9月22日) [オペラ(実演)]

今年のROHの来日公演の「椿姫」は、開幕前のゲオルギューのキャンセルに始まり、初日と3日目にはヴィオレッタが途中でヤオからペレスへ交代するという、何とも締まりのないものになってしまったのですが、その最終公演となる22日のヴィオレッタは、かねてから噂のあった通りのアンナ・ネトレプコ(Anna Netrebko)の登場となりました。20日の「マノン」公演最終日が終わるまでネトレプコが歌うかどうか分からないのでぎりぎりまで発表できなかった、という公式コメントが出ていますが、この「誰がヴィオレッタを歌うのか」という件については、様々な点でマネジメントのまずさが目に付く対応だったと思います。

私が22日のチケットを入手したのは初日の直後。兎に角、声が出なかったり途中で交代したりしないヴィオレッタが歌う「椿姫」公演を一度見たかったのがその理由です。(私の過去の悲惨な「椿姫」鑑賞体験はこちら:1度目2度目)それにしても、ネトレプコが歌うとなるとやはり動員数が違いますね。日本の公演であれだけチケットを欲しい人たちが会場入り口前で待っているのを初めて見ました。事情を知らず来場した人々も「これはラッキーだね♪」と、開演前から既に会場のテンションは上がりっぱなしでした。

そんな観客達の期待を受けて登場したネトレプコですが、全体としては流石の歌唱を聞かせてくれたと思います。楽々とのびる高音から豊かに響く低音まで、何の心配もなく聞いていられるその安定感には、改めて素晴らしいソプラノ歌手であることを再確認させてもらいました。特に、第1幕最後の「そはかの人か」~「花から花へ」の見せ場では、正にネトレプコのショータイム。歌い終わった後のカーテンコールでは、大喝采を受けていました。ただ、やはり「マノン」から中1日での「椿姫」ということで、声自体にも疲労が感じられましたし、時々アンサンブル時の音程があやふやになったりといったネトレプコらしくない部分も多かったです。また、衣装の裁き方や演技面にも戸惑っているような部分があり、ドレスで引っ掛けて椅子を倒してしまったり、こういうところはやはり準備期間の短さが出てしまったかな、と思いました。大好きな演出なので、あちこちでこういう細かい点が気になってしまったのは残念でした。それから、第3幕はいくら歌えるとは言っても、もう少し死にそうに振舞って欲しかったです(^_^;)もう起き上がるのも大変な状態のはずが、部屋の中を元気良く走りながら歌っては駄目でしょう。このまま最期も(お約束の)1週走ってアルフレードの腕の中で絶命、という形だったらどうしようかと思いましたが、そこはヴィオレッタが一人でふらふらと歩いてそのまま床に倒れて絶命する形になっていました。これはロンドンで歌ったときもこのバージョンだったんでしょうか?個人的にはあのちょっと大仰でドラマチックな1周走る終わり方が音にも合っているし好きなんですが、ネトレプコだと、本当に生き返ってしまいそうです…。

そして初日は素晴らしいパパ・ジェルモンを見せてくれたサイモン・キーンリーサイド(Simon Keenlyside)ですが、この日は少々お疲れモードだったと思います。珍しいことにアリアで1ヶ所声がかすれてしまい、心臓が止まるかと思うほどビックリしました!(いやー、アリアであそこまでミスするのを聞いたのはこのとき以来でしょうか。)そんな状態でも、この1ヶ所以外はきっちり歌いきっていたのは流石ですが、全体の出来としてはやはり初日の方が良かったように思います。ただ、ヴィオレッタと対峙する際の演技は、ネトレプコ相手の方が「ヴィオレッタの心情も理解し、敬意をはらうパパ」という私の理想のパパ・ジェルモン像に合っていて、この場面はじっくり堪能しました。
ヴィオレッタが「アルフレードと別れましょう」と言った後、パパ・ジェルモンの差し出す感謝の手を、他2人のヴィオレッタとは違ってネトレプコは受けてくれたので、手の甲に丁寧にキスをしたり、その後に「娘として抱いてください」と言われたときも、「それだけはできない!」という苦しそうな表情で目を逸らしたりしていました。初日はどっちかと言うと「何を言ってるんだ、この女は」といった冷めた感じだったので、ここのパパ・ジェルモンとヴィオレッタのやり取りは最終日の方が断然お気に入りです!パパ素敵~♪歌の方も、ネトレプコのたっぷりと歌うテンポにもしっかり合わせていて非常に聞き応えのあるやり取りでした。しかも、ヴィオレッタへの態度が軟化するに従って段々声色が柔らかくなっていき、最後の"Addio!"の所は非常に美しくて感動的なものになりました。あ、そういえば初日は気になった足を引きずる動きは大分大人しくなって動き自体もゆったりとしていて、ずっと杖をついて動いていました。足を怪我するのも、こういう役の時にはいい方向に影響することもあるんですね(^^)トーク会で突っ込まれていた眼鏡の扱いも、この日はずしたのは演技の一環での1度のみでした。今後も、舞台上で眼鏡かけるときは我慢してくださいね~。

キーンリーサイドとは逆に、初日は全くいい所のなかったジェームズ・ヴァレンティ(James Varenti)は、この日の方が断然歌えていました。初日のペレス相手の時は「自分が頑張らないと!」と力みすぎていたのが、この日は「ネトレプコに任せておこう」という姿勢だったのも吉とでたようです。ですが、やっぱり歌い方の癖は気になります。そして演技の下手さも…ネトレプコをしっかりサポートしていたキーンリーサイドと比べてはかわいそうかもしれませんが、ネトレプコの動きに後からついていくのに精一杯といった感じで、結局あまり印象に残らないアルフレードでした。

他の歌手達の中では、初日はいい声を聞かせてくれたガストン子爵役のパク・ジミン(Ji-Ming Park)が調子を崩していて残念でしたが、彼以外は初日同様に質の高い歌唱でした。オーケストラはネトレプコのまったりした歌い方に先行してしまうことが多かったですが、アントニオ・パッパーノ(Antonio Pappano)がそのずれを瞬時に修正する見事な指揮を見せてくれました。やっぱり、彼のこういうオペラ全体としての完成度を考慮した指揮は大好きです☆きっとこの日一番大変だったのは、パッパーノだったでしょう。最後までお疲れ様でした。

カーテンコールでは、歌手、合唱だけでなく巨大な電飾のSAYONARAの文字と共にスタッフ全員が舞台上にあがり、「大成功おめでとうございます。」の看板が上から降りてきて銀テープが舞う、というベタな演出がされていました。キャンセルと代役とネトレプコ登場で大荒れだった今回の「椿姫」公演が大成功だったとは言えないと思いますが、舞台上では歌手やスタッフが銀テープと銀の紙ふぶきに大はしゃぎ。いろいろあったけど、とりあえず何とかロイヤル・オペラの意地を見せた公演で終われて良かったですね~。私の目的であった、ヴィオレッタがきちんと歌いきる「椿姫」公演を見る、という点も達成されたと思います。とにかく、オペラ作品としての完成度にはあちこちほころびがありましたが、一流歌手の一流たる所以を感じた公演でした。次回2015年の来日の際には、トラブルなく公演できるといいですね。
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コメント 10

Sheva

おぉ!お待ちしておりました。
サイモンって相手によって演技を変えるんですね。そういうとこすごいな~やはり。
天性の役者。
そこにばかり目が行ってしまう私はオペラファンとしては失格ですけど、だってしょうがないですよね~
充実したリポートに感謝です!
あのアリアでそんなことになったなんて。ちょっとショックですね。
でもオペラはライブだから。そういうものです。
by Sheva (2010-09-26 00:45) 

stmargarets

ネト子さん、本当に歌ったんですね。
すごい!!!
あのマノンの後、中1日で椿姫なんて。。。
幾ら何度も歌ったことのある役と言っても、それで舞台に立って歌いきるって、本当にすごいと思う。。。

ちなみに多少元気がよすぎるネト子さんも酔っ払いにしか見えなかったフレミングよりは絶対よかったに違いないと思います。(ってフレミングファンがいらっしゃったらごめんなさい。。。)
ロンドンでネト子さん観た時はそんなに元気よすぎた印象はなかったですけどね。。。
by stmargarets (2010-09-26 02:27) 

keyaki

ヴィオレッタ迷走劇やっと終了...野次馬根性で、いつもは行かない2ちゃんまでチェックしちゃいました。(笑
しかし、最近のオペラ関係スレッドは質の低下が半端じゃないですね。数年前は、素晴らしいスレッドがあって、私もいろいろ教えてもらったものなんですけど。

それにしてもヴァレンティは運がいいのか悪いのか....まったく話題にされなくて......ゲオルギューの今回のキャンセルもロンドンのキャンセルも彼にもちょっとは責任あるかも.....なんちゃって....
カウフマンとかグリゴーロならはりきっちゃうんでしょうけど、今度は、自分より拍手が多かったりするとやっぱりおへそ曲げちゃうのかな....(笑

しかし、ROHもオペラ界の2大キャンセル魔を連れての来日公演なんて、やっぱり無謀でしたね。株を上げたのはネトレプコ、一番はずれくじをひいたのはエルモネラ・ヤオ....スケジュール通りハンブルグに出演していれば....なんとも気の毒....スターになる歌手は、ここぞという時に強い、というかそう人が、やっぱりスターになるということなんでしょうね。

私は、キーンリーサイドも本当に来るのかな...と疑問でしたが、野鳥の観察もあったんですね。(笑

これだけ話題になった公演ですから、NHKの放送があれば、「椿姫」はもういいよ...という人も見ると思いますよ。
収録してないとおっしゃってる方も多いようですが、ROHもNHKにリンクはっていたんですから、そのこともちゃんと情報提供してほしいですね。
by keyaki (2010-09-26 10:55) 

Kew Gardens

詳細にわたるレポートありがとうございました。 これを読みながら、そうだったわよねと、思い出してしまうところがちょっと情けなかったりして。。。 年だからということで、お許しくださいね。

2幕めのPape GermontとViolettaのやりとりは、結局、三者三様だったのでしょうか。 ヤホ嬢のそれをみていませんが、明らかに初日のペレス嬢の、まだ若いViolettaと、ネトレプコの(ちょっとがさつだけれど)成熟したViolettaでは、Keenlysideの対応が違いまいたもの。 ほほをかるくなでる(対ペレス嬢)、出された手にキスする(対ネトレプコ)と、流れのなかで適切な所作を織り込むなんて、さすがでした。 テンポも発声もかえていましたし。 例のアリアは、ショックというか残念でしたが、総合芸術としてのオペラという点では、一流のものを見せてもらったと思います。 

Hamletだったか、何かのインタビューで、突然のキャンセルで代役が出ることに対して、Keenlysideが”その時その時の状況で、本能的にこなしてしまう”という意味でSpontaneityという言葉を使っていたと思います。 今回がまさにこれ、Keenlysideだけではなく、出演者全員にとって、当日は何がおきてもおかしくない舞台だったと思います。 

マネージメントのまずさが突出したような今回のROH公演でしたが、5年後は、いくら水物商売とはいえ、ボトムは抑えたプランBもってちゃんと用意して来てくださいよ、と願わずにはいられません。 

お疲れ様でした!
by Kew Gardens (2010-09-26 17:34) 

Sardanapalus

Shevaさん>
最終日の感想お待たせしました。

>サイモンって相手によって演技を変えるんですね。
>オペラはライブだから。
良くも悪くも、今回のROHの来日公演はライブ感満載でしたね。私はヤオの時の演技はこの目では見ていませんが、3人のヴィオレッタに対して、キーンリーサイドがそれぞれ異なる対応をしていたことは間違いないでしょう。これだから、彼から目を離せなくなるんですよね~。
by Sardanapalus (2010-09-26 22:34) 

Sardanapalus

stmargaretsさん>
>ネト子さん、本当に歌ったんですね。
>幾ら何度も歌ったことのある役と言っても、それで舞台に立って歌いきるって、本当にすごい
もう、出演すると公式発表があったときは大騒ぎでしたよ!私はネトレプコ特に好きではないですが、しばらく歌っていなかった役、しかも難しいアリアのある主役を引き受けて歌いきったという点には感服しました。

>ロンドンでネト子さん観た時はそんなに元気よすぎた印象はなかったですけどね。。。
あ、やっぱり今回は特殊なケースだったんですね。調整期間がなかったからか、この日の第3幕は歌も演技もかなり元気そうでした(笑)
by Sardanapalus (2010-09-26 22:47) 

Sardanapalus

keyakiさん>
>ヴィオレッタ迷走劇やっと終了
本当に、「やっと」終わりました(^_^;)個人的に愛着のあるROHの公演でしたから、この迷走っぷりには複雑な心境でした。

運の良さで言えば、ヴァレンティは「良い」んじゃないでしょうか?あれだけ駄目でもスルーされてますから(笑)逆にヤオは運に見放されているようですね。

>ROHもオペラ界の2大キャンセル魔を連れての来日公演なんて、やっぱり無謀
私も、発表当初から無謀なキャスティングだなぁと思っていました。キーンリーサイドですら、「アンジェラはどうなるか分からないよ~。だってアンジェラだから(笑)」なんて冗談で言っていましたが…まさかここまでこじれるとは。

>キーンリーサイド
>野鳥の観察もあったんですね。(笑
役柄から考えて、今回の来日の第1の目的は日本の鳥と自然だったんじゃないかと思っています(^^)

>NHKの放送
そう、あんなにばっちりリンク貼ってあるのに、最終日もカメラが見当たらなかったのは確かなんですよ。うーん、見えにくい位置に設置できるようにNHKホールを改装したのか(それは無理だと思いますが)、ゲネプロを収録したのか、それとも収録はなかったのか??NHKでもROHでも構わないですが、早く収録したのかどうか告知して欲しいですね。
by Sardanapalus (2010-09-26 23:18) 

Sardanapalus

Kew Gardensさん>
>これを読みながら、そうだったわよねと、思い出してしまう
誰でもそうだと思いますよ~。他人の感想を読むと自分が忘れてたことや思い出せなかったことが書いてあって面白いものです。

>Spontaneity
正にこの言葉がピッタリの公演でしたね。歌手も、オケも、指揮者も、スタッフも、皆が「人事をを尽くして天命を待つ」といった心境だったとおもいます。こういう公演もあるというのも、舞台芸術の面白みだったりしますね。

当日は遅くまでご一緒できて、楽しかったです。お疲れ様でした~!
by Sardanapalus (2010-09-26 23:32) 

しんしん

詳細なレポートを堪能しました。 有難うございます。
ネトレプコ、中一日の休みでそれだけ歌うとは怪物君です!

>舞台上で眼鏡かけるときは我慢してくださいね~。
爆笑しました。 推測するに、はめはずし回数は公演ごとに減っている訳ですね。 三日目は2回だったように記憶します。 でもそれ以外に、手を二度、鼻筋のところにあてたので、おっとまたはずすか?それとも鼻がかゆい?と内心なごんでおりました。

ところで、
初日に県民ホールのロビーにて呵々大笑し、ご機嫌でサインの求めに応じていたMr Tony Hallよ、ふたたび遭遇する機会が訪れたならば、私は氷の微笑を浮かべつつ、「いや私、2010年のROH公演で知ったのですが、椿姫ってACT1のあと衣装だけでなく中の人も変わるオペラだったんですね?」と......(妄想、失礼しました)
by しんしん (2010-09-27 01:15) 

Sardanapalus

しんしんさん>
楽しんでいただけて、頑張って書いた甲斐があります!

>>舞台上で眼鏡かけるときは我慢してくださいね~。
>爆笑しました。 推測するに、はめはずし回数は公演ごとに減っている
おお、19日の時点で2回に減っていたのですね。初日は老眼鏡なのか?と思うくらいかけたり外したりしていたので、確かに、毎回減っていったようです。

>それ以外に、手を二度、鼻筋のところにあてた
あ、眼鏡を指で押さえる動作は4,5回やっていたと思います!私も、手が眼鏡に行く度に「おっと、我慢、我慢!」って念を送っていました(^^)

>初日に県民ホールのロビーにて呵々大笑し、ご機嫌でサインの求めに応じていたMr Tony Hall
な、なんと!それはぜひ不満のひとつやふたつぶつけておきたかったです!おそらくその頃、私は人でごった返すロビー中央は避けて隅の方でお喋りに夢中でした。
by Sardanapalus (2010-09-27 23:07) 

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